スポンサーサイト

2015.07.03 Friday
0

    一定期間更新がないため広告を表示しています

    category:- | by:スポンサードリンク | - | -

    テラプト先生がいるから

    2014.03.22 Saturday 22:15
    0
      『テラプト先生がいるから』
      ロブ・ブイエー 著 西田佳子 訳
              静山社 201307

                 
      テラプト先生がいるから

             今月の書評 「個別のドラマを抱えて」

       

       父が逝った。突然、肝臓の末期癌だと宣告され、四十五日で風のようにこの世を去ってしまった。健康を絵に描いたように輝いていた父が、日に日に死に近づいていくのに目の当たりにしながらも、日常がある。父と行く予定だった海外旅行もキャンセルしなくてはいけない。その手続で不愉快なやりとりがあった。受付の女性が、返金に必要だと契約時に言ったと主張する書類を私は残してなかった。聞いていないと言う私に、女性は言ったはずだから探せと非常識を責めるような不遜さで強固に言い張るのである。事務処理というのは残酷なもので、他に安い旅が見つかってキャンセルする客にも、親が死ぬかもしれない客にも同じことを求めなければならない。私は、かけがえのない父が居なくなるかもしれない一瞬にも、瑣末で、極めて日常的な不愉快が起こる事に怒りよりも寂しさを覚えた。

       もちろん、キャンセルの理由など問われるはずもなく、旅行窓口の女性にとっては日常の、仕事でしかないだろう。私とて日常であれば、彼女の無礼な態度を家族に愚痴として伝え、終わってしまう事かもしれない。

       しかし、私はたぶん一生この出来事を忘れないだろう。日常と非日常が向かい合ってしまった違和感、空虚な思い、その手触りを忘れることはできないと思う。

       目の前にいる人の個別のドラマ。人は、どう優しく敏感であれば、時間と空間を共有するものとして、語られることのない個別のドラマを抱える相手と適切に寄り添えるのだろうか。そんなことを考えているときに『テラプト先生がいるから』に出会った。
       
      この物語は、小学校五年生、同じクラスの七人の子どもたちが、それぞれの口で語っていく一人の新米教師の物語だ。

       悪乗りがすぎるピーター、転校生のジェシカ、自分の力を誇示するために人を傷つけることにかまわないアレクシア、いつも不機嫌なジェフリー、プライド高きルーク、信仰深いけれど封建的すぎる家庭に育つダニエルと、後ろ指さされる母を愛するアンナ。

       教え方がうまく、遊びを交えた、考える教育を実践する新米教師は、若さゆえに子どもたちに好意的に向かえいれられる。

       しかし、子どもたちの自己顕示、大人たちの影響、幼いゆえに知らされない真実は、自身を、周りを傷つける出来事として日常に複雑に絡み合っている。

       テラプト先生は、けして卓越した指導者や偉大な支配者でなく、日常の一人の登場人物として、子どもたちとかかわる。大人の目と常識を持った存在として、重要な局面で、自分の思いを真っ直ぐ伝える。その存在が、子どもたちを少しずつ変化させ、何かが解けていく。子どもたちの家庭環境も、巻き起こるいざこざもけして特別なことではない。テラプト先生もそうだ。よくいる良い先生だと言ってしまうことも出来るだろう。子どもたちの投げた雪球が、思いがけない事件を引き起こしたとき、平凡な日常は、大きく動き出す。テラプト先生への思いが、子どもたちが抱える個別のドラマを一歩前に動かし、整理させ、他者に思いを伝える勇気が生まれるのだ。

       私が親の死と向き合ったことも、誰にでも訪れる平凡な悲しみなのかもしれない。しかし、平凡な個別のドラマは、誰にでもと思えない強さでわが身を打ちのめす。
       
      ジェシカがこんなことを言っている。

      「それとも、相手のことをどれだけ知っているかなんて、関係ないんだろうか。その人のことが大好きなら、それでいいのかも。」

       向かい合う人間の個別のドラマを、我々はすべて知るなんてことは到底できない。しかし、相手を思うことが、相手を知っているということを越えることができるのだと、この本は教えてくれる。平凡なドラマと平凡な言葉。それが自分にとって平凡ではない物語を紡ぐ。
       
      そのことを尊重することが相手と関わるということではなかろうか。それが生きるということなのではないだろうかそんなことを思った。

                    「子どもの本棚」201404

      category: | by:天晴くん☆comments(0)trackbacks(0)

      スポンサーサイト

      2015.07.03 Friday 22:15
      0
        category:- | by:スポンサードリンク | - | -
        Comment








           
        Trackback
        この記事のトラックバックURL

        PR
        Calender
           1234
        567891011
        12131415161718
        19202122232425
        262728293031 
        << March 2017 >>
        Selected entry
        Category
        Archives
        Profile
        Search
        Others
        Mobile
        qrcode
        Powered
        無料ブログ作成サービス JUGEM