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    悲しみよ こんにちは

    2009.06.01 Monday 23:40
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        6月がやってきた。私はサガンと同じ日に生まれた。6月21日、誕生日が近づくとサガンを思う。そして、私はあの頃に連れ戻される。

       思春期の嫉妬とは無謀なものである。

       高校1年生だった私は、 時を越え、1954年を生きる18歳のサガンに嫉妬していた。全世界でベストセラーとなるデビューし、小さな悪魔と言われたサガン。表紙をめくると現れる、物憂げな子猫のようなサガンの容姿。
       『悲しみよ こんにちは』 朝吹登水子・訳 新潮文庫
       その洗練された題と、サガンと重なる主人公セシルの経験、そして精神の動きと残酷さ。成熟と青い情熱。奇妙な敗北感と嫉妬に身を焦がしながら、私はその本を読んだ。
       あと、2年たったとして、私はこんなにも、自由で美しく、わがままで鮮烈に生きているのだろうか?
       それは、セシルのようになのか、サガンのようになのか、強い嫉妬に苦しみながら、かなわないことを感じながら、私は、サガンの本に次々に手をだした。

       再読したら、つまらないかもしれない。
       高校時代の大切な思いまで壊してしまいそうで、私はこわごわ、文庫本を手にした。

       はじめ、今の読みやすい翻訳を読みなれた私には、朝吹登水子の訳は少し硬いと思った。不自然にすら感じた。
       しかし、その言い回し、硬質な、いかにも翻訳だという文章、そして古い本の独特の匂い。
      大切な本は、大切な思い出と直結し、私の心を、今もなお捉えて放さなかった。 

       シリルが顔を少し前に持ってきて、私たちの唇が触れ合ったとき、私たちはお互いにもうしりあった仲だということを感じた。私は目をあけたまま坐っていた。彼の、熱い、硬い、じっと動かない口が私の口の上にあった。あすかな震えが唇を伝わった。彼はそれを止めようとして、もう少し唇を押しつけた。それから彼の唇が開いて、その接吻は能動的になり、すぐ命令的になり、巧妙に、あまりにも巧妙になって行った・・・・・・。

       ファーストキスの表現でこれに勝るものがあるだろうか?

       直接的で自然な文章で、微に入り細に入り描かれることが表現であると、安っぽい描写として満足していた、最近の、読者としての自分の感性の低下に愕然とした。

       あのころの、体中の血が沸きあがるような嫉妬は感じない。
       こんなものは面白くないと、友人に、言い訳をしたくなるような衝動もない。
       もう少女ではない自分を 少し寂しくは感じたが、久々に読んだサガンは、やっぱり私の気持ちを捉えてくれた。永遠なのかもしれない。私の中の内なる少女は、やはりサガンを楽しんでいた。

       なんだかもっとサガンが読みたくなって、検索してみたが、ほとんどの著作が品切れ・絶版になっている。唯一、簡単に購入できそうな本が、同じ新潮文庫で、2009年1月河野万里子の新訳で出版された『悲しみよ こんにちは』だ。
       ぜひ、読んでみようと思う。
       朝吹訳を越えていても、私の思い出は越えられないだろう。
       だからなおさら読むのが楽しみでもある。


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