後藤竜二追悼文 5

2014.04.29 Tuesday 15:18
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    「応援歌は、今もこの胸に」

                

    後藤竜二さんとは懇意にしていますと自慢したら、地元で読み語りボランティアをしているお母さんから、手紙を預かったことがある。もう十年も前の話だ。

    小学校一年生の娘さんは『1ねん1くみ1ばんでっかい!!』が大好きで、後藤先生に手紙を書いたから渡してもらってほしいと、頼まれたとのことだった。

    後藤竜二は、手紙を開いたとたん、破顔というのはこういう顔のことですよ、と、言いたくなるような晴れやかな表情を浮かべた。

    「見せてやろうか?」

    と、自慢げに言う。

     手渡された手紙は、いかにも女の子が大切にしまっていそうな可愛いピンクの便箋で、ピカピカ光るシールが何枚も貼ってあった。そして、硬筆のお手本のように丁寧な大きな字で、

    「うんこ おもしろかったです。」

    と、書いてあった。

    「手紙って、これだけですか?」

     私はたずねた。

     後藤竜二は、大切そうにその手紙を封筒に入れなおすと、胸に当てる仕草をした。

    「こういうのが一番嬉しいんだよ。」

     敵わないなと思った。

    評論で、どんなに言葉を尽くしても到達し難い境地に、子どもの一言は軽々と届くのだと思うと、なんだか妬けた。後藤竜二が常々言葉にする、作家が「書くぞ!」と思い、児童文学界が元気になる評論と言うものは、極論すれば、子どもが放つこういう言葉なのだろうと実感し、難しいところを目指さないといけないのだなと身が引き締まる思いがした。

    私に、「児童文学評論家」という肩書きをつけたのは後藤竜二である。

    おりしも、政治家やタレントの経歴詐称がワイドショーをにぎわしている時だった。大学などで、専門的な教育を受けてもいない自分が、評論家などと名乗っていいはずがないと思った。

    「知識があるか、ないかなんて考えるなよ。

    まっすぐな言葉を持ってるんだから、思ったことをまっすぐ書けばいいんだ。自分の感性を信じればいい。難しいことは考えるな。」

     そう後藤竜二は言った。

    「組織にとらわれない人間関係をつくれ。

    人間関係にとらわれず本を選べ。

    組織にも人間関係にもとらわれない本の読み方をしろ。」

    それが、自分の感性だけを拠所に論じる人間が、貫くべき筋だとも言った。

    後藤竜二ほどの人がそう言うのである。とにかく、言葉通り、難しいことは考えず、ちょっと自惚れながら書き続けることにした。

    しかし、現実は私を甘やかしてはくれない。ことある事に、私は、時間がないと嘆き、本が思うように読めないと、浮世の仕事や、生活とのバランスに苛立った。

    不況と呼ばれる時代、きっと、児童文学に係わり、その道を志す人たちは、厳しさを増す生活と、叶い辛くなった夢との間で自分を律しながら生きているに違いない。つくる者も、手渡す者も、必死で志を守っている。

    出口のない愚痴を聞かせる私に、ある時、後藤竜二がくれた私信を、最後に紹介したいと思う。この言葉が、生活の場で戦う多くの人に届けば良いと思う。

    後藤竜二は、その人の根本に響く応援歌を口にできる人だった。

    「大切なのは人生です。

    どれだけ本を読んでるかなんてことじゃない。

    生きて、書いていきましょう!」 

                 2010年11月7日筆
                 「この本だいすきの会」より依頼


     1ねん1くみ1ばんでっかい!! (こどもおはなしランド)

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