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    後藤竜二追悼文 7

    2014.04.29 Tuesday 16:53
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       【体を突き抜ける感情】作家が求めた読後感


       

       後藤竜二さんに初めて会った時、私は高校生だった。面白い感想を言える子だと紹介された割には、愛想のない出会いだったに違いない。この人が『少年たち』を書いた作家かと、図書室の肖像画を見上げる思いだった。自分の無遠慮な視線が、憧れの作家を苦笑させるまで、相手が同じ空間で生きていることさえ、わかっていなかったように思う。

      それから程なく、私は、全国児童文学同人誌連絡会「季節風」に入会することになる。後藤竜二代表から始めに宣告されたことは、「仲間なのだから、先生とは呼ぶな」ということだった。その言葉は重く胸に刻まれ、私は、憧れの作家を目の前に、憧れ故にサインを求めることすらできなかった。

      参加六回目の秋の大会。毎回、鞄の中にしまったままで持ち帰る『少年たち』を差し出して、おそるおそるサインを頼んだ。

      「年季の入った本だな」

       後藤さんは、そう言って笑った。

      「『少年たち』をリアルタイムで読んだ子どもが二十五歳にもなるんだ。オレだって五十を過ぎるはずだ。」

       作家と読者、お互いに同じ時間が流れているということを確認され、私は不思議な感慨を覚えた。物語を挟んで、作家と読者に同じ時間が流れているということは、当たり前のようで、ありえない奇跡のような気がした。

       後藤竜二さんは、生前「北村夕香が書いた『バッテリー』の書評。北村夕香にあんな書評を書かせるような作品を、オレは書きたい。」と、仰っていたのだそうだ。勿論、嬉しくないはずがない言葉だ。しかし、八束澄子さんからこの話を聞いたとき、私は、何よりも、胸が詰まるような恐ろしさを感じた。

       あさのあつこさんが書いた『バッテリー』。新刊当時、私は、季節風の書評で、「体を突き抜ける感情」と題し、「一言一言が、私の記憶の中に埋もれている感情を刺激する。そして、自分の心の中でくすぶっている、今の情熱をも急き立てるのだ。」と、書いている。

      後藤竜二さんの『少年たち』との出会いが私の人生を変えた。そのことは、後藤さんとの間で了解事項だったと思う。もはや一冊の本という存在を越えて、私の読書傾向を分ける歴史の始まりであり、試金石であることも知らなかったはずがない。極めてプライベートに響いている、自作の影響さえ越えた、得体の知れない力を持つ作品を描きたいと願っていたのか? 物語を挟んで、作家と読者に、同じ時間が流れる。読者と共に大きく育った物語が、再び読者を育てるものならば、作家もまた、その時間に打ち勝つものを生み出す存在でなければならないということか。そう思うと、作家というものは、なんて、業の深い生き方を強いられる職業なのだと思った。

       亡くなる一ヶ月ほど前、後藤さんは、ポツリと、『風景』への感想が嬉しかったと言ってくれた。三年も前にメールで送った感想へのコメントだった。

      「ラストには胸をつかまれ、どうしようもない思いが残りました。共感なのか、言い当てられた驚愕なのか、未消化です。なんだろう。

      誰もいない部屋で、ちょっと踊っちゃった感じです。号泣した後とか? なぜかすっきりしております。未消化なのに? へんな感じです。」

      言葉に出来ない思いと、突き上げてくる熱い感情こそ、後藤竜二さんが望んだ読後感だったのかもしれないと思う。作家が求めたもの。私が感じたこと。日常に流されることなく、胸に残るインパクトを一つずつ確かな言葉にしていく。そのために私は、物語と共に、お互いを育てあう未来を生きていくのだろう。

      あさのあつこさんは「追悼とは惜しむことではない。バトンを受け取ることだ。」と、言った。だから、と、続けたら、後藤さんは、いつもの呆れたような、からかう様な調子で、

      「夕香チャンはホントにあさのが好きだな。」

      そう言って、笑うのだろうか。

               2011年3月1日筆
               北海道子どもの本の連絡会より依頼


      風景 (新・わくわく読み物コレクション)

       

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